断章:退院

断章:退院

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退院した。

病院の外に出たデュオは、日の光を浴びて思わず声を上げた。
「おー……見ろよ。俺、ツヤペカじゃん! 工場直送って感じだな」

つぎはぎだらけだった人工皮膚はすべて貼り直され、トレードマークの長い髪も焦げた分は植毛され直してすっきり整えられている。新しい房だけ色が微妙に違うのはご愛敬。
義肢も調整され、動きが軽い。見た目だけなら本当に新品のようだ。

新しくなった肺ユニットも快調に動いている。
入院直前の、焼けついて息を吸っても奥まで届かない感じを入り組んだ裏路地に例えるとしたら、今はシアトルを南北に貫くオーロラ・アベニューくらいに爽快だ。
息をするたび、一気に空気が駆け抜けていく。

ヒイロは一瞬だけ目をとめたが、すぐに視線を外す。
「……修復直後なだけだ」
声は素っ気ない。

デュオはにやりと笑って肩をすくめた。
「よし、働いて金作って、このツヤペカ維持しねえとな」
軽口とともに大げさに伸びをすると、パンと手を叩いた。
「とりあえず、飯だ! 退院祝いにダイナー行こうぜ!」

「断る」
ヒイロの返事はつれない。

デュオはわざとらしく口を尖らせる。
「ええー、しょうがねえな。じゃあ、トロワに声かけるか」

早速連絡を入れようと端末を取り出したところ、ヒイロの足がぴたりと止まった。
無表情のはずなのに、その顔には明らかに「俺の頭を飛び越して誘うな」と書いてある。
自分のことを機械と思っていても、友人の概念はあるらしい。
新鮮な発見だ。論文にまとめて学会で発表するくらいの価値がある。

デュオは再び肩をすくめた。
「おっと、縄張り荒らしはご法度か。じゃあさ──三人で行きゃいいだろ」

ヒイロは答えない。ただ、否定もしなかった。
歩調をわずかに緩めるその背中に、デュオは追いつきざまに軽く拳を当てる。
「決まり。トロワに奢ってもらおうぜ」


油煙の立ちこめるダイナーの片隅。
デュオはおかわりのバーガーにかぶりつき、口の端からソースをこぼしながら「旨いな!」と笑った。

向かいのトロワは、食後のコーヒーを啜っている。

ヒイロの前にはミネラルウォーターのグラスだけ。指先がわずかに硬直し、匂いと油煙を避けるように呼吸を浅くしている。それでも席を立とうとはしなかった。

デュオがにぎやかに喋り、トロワがコメントを差し挟み、ヒイロは黙って聞いている。
ときおりトロワの視線がヒイロを捉え、その表情にほんのわずかに柔らかさが宿った。
(……友人が増えたな。いいことだ)
言葉にはしないが、その目がそう物語っていた。

断章:退院:終