断章:夜明けの海
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任務を終えて海に飛び込んだのは、まだ夜が残る時間だった。
波は冷たく、全身にまとわりつくように重い。それでもフロータージャケットに身を預ければ、海は緩慢な抱擁で二人を浮かせる。
水平線の向こうに、かすかな光が滲んできた。夜明けだ。
暗闇の底から浮かび上がるように、世界が少しずつ青白く染まっていく。
隣でデュオが仰向けに体を倒した。
ジャケットの浮力に支えられ、水に揺られている。濡れた髪が海面にたゆたい、波に散った雫が朝の光を反射してきらめいた。
一瞬、彼が沈んでいくように見えて、ヒイロの胸がざわついた。
「……」
言葉にならない。理由もない。ただ、目が離せなかった。
その姿が「生きている」という証そのもののようで、同時に、危うく掻き消えてしまいそうに思えた。
自分でも説明できない疼きが、胸の奥で熱を帯びる。
喉が渇く。呼吸が浅くなる。夜明けの冷えた海なのに、身体の芯だけが熱い。
遠くでモーター音が聞こえた。回収艇だ。
デュオが片目を開け、口角を上げる。
「おーい、お迎え来たぜ。寝るなよ、ヒイロ」
小型艇が近づき、船縁からトロワが無言でロープを投げ、カトルが穏やかな声をかける。
「任務ご苦労さま。武器は防水バッグに入ってるね? ……引き上げよう」
ヒイロは無言で頷く。
海に浮かぶ黒いバッグが、彼らの銃や装備を詰め込んで波に揺れていた。
艇に引き上げられる瞬間、ヒイロはほんの一瞬だけ振り返った。
夜明けの光に照らされ、波に揺れるデュオの姿がまだ瞼の裏に残っている。
揺れる光の残像が胸を焦がし、理由もない疼きをかき立てていた。
断章:夜明けの海:終